近年、オフィス環境が多様化する中で、なくてはならないのが電源です。コンセントを増やせるOAフロア(床下に配線を通すパネル式フロア)も一般的ですが施設費が高く、空間の雰囲気も限定しがちでした。柴田文江さんがデザインした“hako”は、そんな課題を解消するポータブルバッテリーです。
「フリーアドレスが浸透し、オフィス内での働く場所が多様化する一方、ノートパソコンの内臓バッテリーだけでは足らず、電源がない場所では快適に働きつづけることができないという問題も生じてきています。そこでイトーキから、「バッテリーをデザインしてほしい」という依頼を受けました。ただそれに対して、バッテリーらしいバッテリーを提案してもしょうがないと思い、私が考えたのが『箱』でした。私はデザインする上でフォルムを大切にしているのですが、台の上に過剰な形のバッテリーが4つもあったら美しくありません。機能に合った大きさと形状をふまえて、シンプルな4つの箱が並ぶデザインにしました」
イトーキのポータブルバッテリーということも意識しましたか?
「電機メーカーがつくっているポータブルバッテリーの主流は、もっとガジェットっぽいデザインなんです。でもそれではイトーキらしくありません。オフィス空間全体を提案しているイトーキには、空間に調和して目立ちすぎないものがふさわしいはずです。これが定着していけば、設計者が“hako”を壁に作り付けにすることもあるかもしれない。そんな使い方をすることも想定して、収まりのいいフォルムを考えました」
デザインを意識させないデザインとも言えますね。
「なので、プレゼンを通すのには苦労しました(笑)。シンプルなものほどプレゼンで理解してもらうのは難しいんです。だから3Dプリンタで出力したものに4色の紙を貼って本物とほとんど変わらない模型をつくり、アダプターも本物そっくりにして、実際に空間に置いたところまで写真に撮って見せました。『すごい!』とみんなが言ってくれるかと思ったら、最初はシーンとしていて……。
しかし、やがてこちらの意図を理解してくれました。一見、持ちにくいようですが、背面にストラップが付いていて、そこを握って持つとPCなどの荷物と一緒に運ぶのも簡単です。オフィスではオンラインの会議などで席移動が増えたので、『これはいける』と。使う時も、運ぶ時も、充電しておく時のことも考えた仕様になっています」