プロダクトデザイナー、柴田文江に聞く、
“vertebra03 WOOD”と“hako”に込めた思い
(前編)
プロダクトデザイナー、
柴田文江に聞く、
“vertebra03 WOOD”と“hako”に
込めた思い(前編)

今冬、イトーキからエポックメイキングなふたつのプロダクトがデビューします。ひとつ目は、2019年に誕生した“vertebra03(バーテブラゼロサン)の待望のニューモデル“vertebra03 WOOD”。もうひとつは、ペーパーボックスのような佇まいが美しいポータブルバッテリー、“hako”です。明日の「働く」を、デザインする。イトーキのステートメントを両プロダクトを通じて具現化したプロダクトデザイナー、柴田文江さんにインタビュー。前編は、カリモク家具とのコラボレーションによって生まれた“vertebra03 WOOD”について。柴田さんがデザインに込めたメッセージと開発ストーリーについて話を聞きました。

新たな挑戦を実現したカリモク家具と
イトーキの知見とテクノロジー。
新たな挑戦を実現したカリモク家具と
イトーキの知見とテクノロジー。

vertebra03 WOOD”の発想は、どんなふうに生まれたのですか?

「背もたれや座面に木を使った“vertebra03”をつくりたいという話は、かなり早い時点からあったんです。私も仕事場でこうして木のテーブルを使っているし、イトーキが手がけるオフィスでも木でできたものが増えています。そんな空間とのコンビネーションを考えていました。

しかし、“vertebra03”は工業製品ですし、キャスターが付いた可動式の椅子に自然素材を組み合わせるのは正直とても難しい。実現できないと思い込んでいました。そうしたら、カリモク家具さんと一緒にやらないかという提案があり、いきなり背もたれと座面のデータから木を削ってもらうことができた。そこから一気にプロジェクトが進んでいきました」

vertebra03”のフォルムをそのまま“vertebra03 WOOD”で再現したのでしょうか。

「カリモク家具さんには、無垢の木や修正材を3次元で正確に削り出すすばらしい設備があります。“vertebra03”の場合は、背もたれや座面とフレームをジョイントするために、通常の木の椅子とは違う細かい加工が必要でした。そこはカリモク家具さんの技術者が相当に頑張ってくれて製品化することができました。“vertebra03”は複雑な3次元の曲面でできているので、それを木で表現するためには細かい調整をしています。

たとえば背もたれのフォルムは、見た感じの印象は同じでも、アウトラインをちょっとだけ四角くくしています。ファブリックを張った状態をそのまま木にすると、素材がナチュラルなぶん、かわいくなりすぎる。素材によって形が必要以上に『喋り出す』ことがあるんです。他にも、座り心地をよくするためにイトーキとカリモクさんの経験を生かしています」

 

 

柴田さん、イトーキ、カリモク家具さんの力を合わせて実現したのがこの椅子、ということですね。

「イトーキには人間工学的な知見があり、オフィスチェアにふさわしいカーブの提案や、独自に行っている試験の結果もふまえています。他のメーカーでものをつくる時は9割くらいをデザイナーが決めるけれど、イトーキの場合はそこが大きな違いです。そしてカリモク家具さんにも、やはり椅子づくりのプロがいて、ここはこうしてはどうかという細かい指摘のリポートがイトーキと共有されています。私も実際にカリモク家具さんの工場を訪ねて、使っている木材から一通りの製造工程を見せてもらいました」

vertebra03 WOOD”には、クリア、ブラック、グリーンという3つの色のバリエーションがありますね。

「素材は国産のクリ材を使っていて、自然のままの色合いも素敵ですが、いろいろな働く環境に合わせる椅子として色のバリエーションがあるほうがいい。しかし、あまり濃いと木の良さがなくなってしまいます。フレームの色との相性も考えて、その3色を取り揃えることになりました。いくつかの候補の中から絞り込んでいったのですが、ブラックはやはりスタンダード。その点、グリーンはチャレンジでした。どちらも色の濃さをさまざまに検証した結果、とてもいい色合いになりました。木の色によって塗装を調整する必要があり、カリモク家具さんならではのノウハウが生きています」

自由な働き方と感性に寄り添う
プラットフォームとして。
自由な働き方と感性に寄り添う
プラットフォームとして。

vertebra03”が最初に発表されたのは2019年ですが、それからコロナ禍を経て働く環境も大きく変化してきました。

「“vertebra03”は当初、家で仕事をするのに適した椅子として選ばれていましたが、現在はオフィスで使われるケースが増えています。この間、働き方が変わったのと同時に働く人の意識も変わりました。組織のトップまでもが、服装や細かい時間にこだわらなくなり、どう働いているかが重視されるようになったと思います。そんな自由な意識が広まったら、椅子のデザインももっとカラフルでいいし、木の椅子があってもいい。日本のメーカーからそんな感覚の椅子が生まれたことに、デザイナーとして意義を感じています」

〈Knoll Textiles〉の生地をパッチワーク状に張った“vertebra03”も、そんな考え方から生まれたのですか?

「はい。〈Knoll Textiles〉はとても力強い生地が揃っているんです。知れば知るほどおもしろくて、家具の張り地に最初に幾何学模様を取り入れたブランドだそうです。また椅子にはあまり見かけないモコモコとした生地や、〈Knoll Textiles〉が最初に発表した生地だという「ケイト」も魅力的でした。“vertebra03”は不思議な椅子で、〈Knoll Textiles〉のようにパンチのある生地にも合うし、ナチュラルな木も組み合わせられる。張り地をパッチワークにしても、レザーを張ってもいい。それもまた今の働き方に合うと思います。私も“vertebra03”をプラットフォームに、スタイリングしているような気分を楽しんでいます。