時代をふまえたデザインの作り方(後編)
二俣公一×柴田文江 
時代をふまえたデザインの作り方(後編)
二俣公一×柴田文江 

「vertebra03」を手がけたプロダクトデザイナーの柴田文江さんが、全3回にわたってホストを務めるオンラインイベント「SPBS × ITOKI “vertebra03” Presents「働く」と「暮らす」を越境するデザイン思考講座 フミエの部屋 FUMIE’S LABO」。第2回目は「CASE-REAL」を主宰するデザイナーの二俣公一さんと、彼が手がけた日本橋馬喰町のDDD HOTELで語り合いました。プロダクトを巡るデザイン談義の後編をお届けします。

フィニッシュがつくる空気感。 フィニッシュがつくる空気感。

ここからは二俣さんの作品を紹介していただきます。まず「シュースツール 」についてお願いします。

K_このスツールは、靴を履くのに座る、足を上げて靴紐を結ぶ、靴を磨く道具を置く、といった靴にまつわる機能が、この1脚に全部そなわるように考えました。

F_二俣さんの造形にはいつもびっくりさせられるんですが、これもそうでした。私も形をつくる仕事をしているから、この形はこうやってこういうところから来たんだとだいたい読めるんですが、シュースツールは読めないんですよね。

K_機能を素直に反映したんです。この形は、座るなら座面が、足を上げるにはバーが、小物を置くには皿が、というふうに要素が決まっていって、それが機能するようにスタディを繰り返して生まれました。

F_機能は担保しながらも、vertebra03ならそれは3割くらいで、そこからどうしていくかを考えます。二俣さんの造形バランスはオリジナルで、しかも格好いいんです。

フィンランドのアルテックから発表した「キウル ベンチ」はいかがでしょうか?

K_最初にアルテックからのテーマとして、フィンランドと日本の文化的背景を意識したファニチャーにしたいと伝えられました。形にしていく上でキーになるものをリサーチしていくと、サウナとお風呂に共通性があることに気づいた。そこから桶とベンチの要素を組み合わせるデザインが浮かびました。

F_ベンチの左右に桶のようなバスケットがついていて、その桶がちょっと斜めになっています。そのバランスがすごい。真っ直ぐだったらまったく別のものになるでしょうね。

K_真っ直ぐも検討したんですが、寸胴で重く、不安定に見えました。末広がりのほうが落ち着いて見えるんです。最終的なフィニッシュのフォルムは、そのプロダクトが出す空気感につながってくるので、結構細かく気を使いますね。

新しい美しさを切り拓く。 新しい美しさを切り拓く。

F_自分のデザインを見ても思いますが、バランスの違いで何が変わるのか、よくわからないところがあります。

K_それは言葉では説明しにくい部分ですよね。

言語化しにくいものを、クライアントなどにこっちがいいんだよって伝えるには、どうするんですか?

K_さっき言ったような機能の話や、あとは部材の量やコストのようなところから積み上げて話をしていくんですが、柴田さんはフォルムについては最終的に言葉にできますか?

F_本当に言えないこともあるんだけど、デザインとはあまり関係ない会社と仕事をするような時は、そういう人たちが腑に落ちるような話をしますね。

K_何かしら信じられるものをつくっておかないと、プロジェクトとしての軸ができないですしね。僕はまだまだですが……。

F_新しい造形、新しい美しさを切り拓いてほしいというのが、二俣さんへのクライアントの依頼なんだと思う。だからデザインのプロにファンが多いんでしょうね。最近、椅子の年表を書いたんですが、昔の椅子はアヴァンギャルドなのに、現代に近づくほど似た感じになっていくんです。そこで二俣さんを思い出した。後から見ると、この時代の造形だと言われるのは、二俣さんのようなデザインでしょうね。

K_その自覚はありませんが、光栄です。でもvertebra03に関しても、この造形が今までにあったかというと、そうではないですよね。

F_以前、デザインした体温計は、よく親和性があるとか優しい形と言われるけど、実は不思議な形をしています。私はそんな不思議な形を、不思議じゃないふうに包むんですよ。でも二俣さんの造形は、自然の中にないものですよね。

K_建築もインテリアも、人がつくる造形が自然に溶け込むのは難しいと思っています。人間がつくるものは人工物だと割り切った上で、極力、美しいものをつくるほうが、自然の中にあって調和が生まれる。それは大きな意味で自然だと思うんです。

落ち着ける色合いと空間。 落ち着ける色合いと空間。

F_私と二俣さんは、考え方は同じでアプローチが違うんでしょうね。私はプラスチックでも、しっとりつくりたい。そうやって造形していくと、みんなを驚かせない感じになっていきます。

K_複数の素材を使うデザインなら、僕は素材が馴染むんだけど馴染みすぎない、ギリギリで対峙する感じにしたいと思っているところはありますね。

F_私は逆で、馴染むどころか融合するみたいにつくりたい。二俣さんは最後のところで凛としたドライなイメージ。でも私はべっとり、ねっとりだから(笑)。ただ表現は違っても憧れるし、共感します。今日の会場のDDD HOTELは、二俣さんの仕事の中でもまた違ったアプローチを感じますね。

K_建築、インテリア、プロダクトは、それぞれ目盛りが違います。建築なら10~15ミリ、インテリアなら2~3ミリ、プロダクトはコンマ何ミリ。このホテルのようなプロジェクトでは、その目盛りの間を右往左往しながら、考えなければならないこととチェックが膨大にあるので大変でした。

F_全体的にグリーンを使っているのはどうしてですか。

K_日常的に使いやすい価格帯のホテルですが、充実したプライベートや仕事の時間を過ごせることがテーマでした。深いグリーンは、昼間の光の中では自然を感じさせるし、夜は黒に近い色に見えます。1日をトータルで考えて、いちばん落ち着ける場所にしようと決めた色です。

F_vertebra03のフレームのひとつはグリーンで、実は同じようなことを考えて色を選びました。最初は黒のフレームもつくろうと思っていたんですが、黒に近いグリーンです。この椅子がホテルの空間に合うのはうれしいですね。今日の収穫です。

K_vertebra03は、脚の種類が選べたり、アームに木を使っているタイプがあったり、同じ1脚の椅子のようでバリエーションを許容している。それはとても難しいことなので、本当に秀逸だなと思います。