生きるように働くということ(後編)
ナカムラケンタ×柴田文江
生きるように働くということ(後編)
ナカムラケンタ×柴田文江

「vertebra03」を手がけたプロダクトデザイナーの柴田文江さんが、全3回にわたってホストを務めるオンラインイベント「SPBS × ITOKI “vertebra03” Presents「働く」と「暮らす」を越境するデザイン思考講座 フミエの部屋 FUMIE’S LABO」。第1回目のゲストは「日本仕事百貨」代表のナカムラケンタさん。清澄白河にある彼のオフィスの「仕しごとバー」で行われた対談の後編をダイジェストでお届けします。

暮らしに「豊かさ」を
実感する。
暮らしに「豊かさ」を
実感する。

F_私より上の世代の人は、仕事を通して上に積み上げていくような成長を目指していたんじゃないかな。でも今は、みんな上に行きたがらない。できれば横に広がりたいと思っている。いろんな友達がいるとか、幅広いコネクションがあるとか。

K_確かに、数字で測れるような、それを拡大していくようなことには関心をもちにくいでしょうね。それよりも自分に寄っていく感覚。以前は社会のルールや慣習に委ねていたことも、今は自分がどうありたいかに正直になってきたし、自分がそうしたいから、他の人の思いを尊重する若い人たちが増えたように感じます。

F_特に最近は家にいる時間も長いから、私、豊かなんですよ。

K_僕が仕事場にしているこの建物は、人が集まるイベントスペースが多かったんですが、イベントがオンライン化すると広い場所が必要ないので、自宅を上の階に引っ越そうかと考えています。他のスタッフが住んだり、ローカルライター(日本仕事百貨の取材を地方で行うスタッフ)が泊まれる場所にしてもいい。オンライン化の一方で、オフラインで人と人が会うこともすごく大切だと思っています。

働き方でリモートが浸透しても、人が集まる場所が必要なのは変わらないでしょうね。その環境や、やり方は変わるとしても。

人と人の接点を
増やす空間。
人と人の接点を
増やす空間。

K_もうひとつやりたいのは、この建物にジムをつくることです。僕は近所の寿司屋の大将がやっているプライベートジムのような場所に通っていて、そこに行くと普段は接点のない人とも仲良くなれる、一種のコミュニティになっている。成人式や教習所みたいに、普通に暮らしていたら出会わない人と知り合えるのがおもしろい。

F_私も自分のスタジオにインストラクターを呼んでヨガ教室をしてみたい。去年、スタジオで「vertebra03」の発表会をしたんです。その時に、仕事以外の使い方ができるのは、とてもいいなと思いました。自分の「働く」と「暮らす」をミックスするだけじゃなくて、他の人の「働く」と「暮らす」ももっとミックスしたいんですよ。それは、すごく仲がいい人とずっと一緒にいるのとは違う意味がある。ある瞬間、いろんな接点をたくさんもちたい、という気持ちなんです。

K_あるムラの中で、ムラと共に生きていく価値観もあるけれど、選択肢がある状態のほうが望ましいとみんなが思うようになった。選択的、オプショナルっていうのは今の大切なキーワードです。社内のフリーアドレスとか、結婚する時の夫婦別姓とか、選べることが人間にとって現代的で、とてもいいことじゃないでしょうか。

F_椅子の話に戻ると「vertebra03」は選択肢をいっぱいつくりました。

脚はキャスター、4本脚、木の脚があり、フレームの色やファブリックが選べて、約1700種類になります。「vertebra03」のオフィシャルサイトでは、その組み合わせを柴田文江さんが選んだ48種類のスタンダードモデルも発売されました。

K_自由に選ぶこともできるし、セレクトもされている、ということですね。

完成させない
プロダクトの提案。
完成させない
プロダクトの提案。

「vertebra03」を発表した時、文江さんが半生(はんなま)と表現していました。

F_完成させていない、つくり切っていないんです。お客さんも、完璧なものを買うより、買って自分のものにしていきたいだろうと考えました。だからこれだけの組み合わせが必要だと思っています。プロダクトはカチッとしたものだから、実現するには難しいこともあったけれど、そういうニュアンスのあるものづくりがしたいと思いました。

K_部分的にユーザーに委ねたワークチェアなんですね。自分でカスタマイズもできるんですか?

F_ワークチェアとしての機能は担保しなければいけないので、それはできません。半生はいいけど、粉の状態が残っているのはいけない(笑)。そこはしっかりつくってあります。私、インターネットでいつもパトロールしてるんですが、みなさんとても上手に組み合わせているんです。それを集めたら、いいカタログができそう。ちょっと前まではカリスマみたいなものや、圧倒的な何かを求めるところがあったけど、今は自分が主体で、どう取り入れられるかが大事みたいです。

ではトークイベントの最後に一言ずつメッセージをお願いします。

K_これから「vertebra03」を2脚、自分で使うことになりました。どういう場面で使おうか、オフィスか、しごとバーか、家で使うか……。生きている時間、どんな場所でも使える椅子だと思いました。

F_今日はナカムラさんにお会いして、これからもトークイベントが続いていきますが、この椅子をダシにいろんな方と会えるのは、お酒が飲めない私にとってはバーに行くような楽しさがあります。私は次回にお会いする二俣公一さんのデザインの大ファンなので、とても楽しみです。ケンタさんもお時間があればぜひ、いらしてください。