「vertebra03」を手がけたプロダクトデザイナーの柴田文江さんがホストを務めるオンラインイベント「SPBS × ITOKI “vertebra03” Presents「働く」と「暮らす」を越境するデザイン思考講座 フミエの部屋 FUMIE’S LABO」。シリーズ最終回となる第5回目の対談相手は、インテリアスタイリストの作原文子さん。vertebra03の発表会でもスタイリングを担当するなど幅広く活躍しています。そのトークのダイジェストを前編と後編でお伝えします。
__「フミエの部屋」は今までゲストにゆかりの空間にお邪魔してきましたが、今回は第5回目にして初めて柴田文江さんのスタジオでトークを行います。
柴田文江(以下SHI)_やっと、フミエの部屋にようこそ、という感じですね。ちょうど1年くらい前、vertebra03のプレス発表会をこのスタジオで開催した時に作原さんにスタイリングをお願いしました。リビングやダイニングのシーンをつくってもらい、私の執務室もきれいにスタイリングしてくれましたね。じっくりお会いしたのは、あのお仕事が初めてでした。
作原文子(以下SA)_懐かしいです。柴田さんが仕事する部屋、好きでした。柴田さんが履いている靴を飾らせてもらったりして。
SHI_すごく素敵な人が働いていそうな空間になりました(笑)。作原さんはずっと前から存じ上げていて、お仕事もよく見ていたので、製品としてできあがったばかりのvertebra03をどうスタイリングしてもらえるか期待していました。
SA_プロダクトデザイナーの方はかっちりした感じを好む印象があったので、私が普段やるようなスタイリングのニュアンス的な部分をどれくらい受け止めてもらえるだろうというプレッシャーもありました。ただ、vertebra03はシンプルなんだけど、どこかかわいい、気が利いている。柴田さんの性格やセンスが反映されているんだと思います。だから、楽しい、きれい、美しいというのをポイントに、洗練されてきちんとしているところと、少し崩すところを、自分なりにつくっていきました。
__作原さんから見て、vertebra03はどんな椅子ですか?
SA_仕事用の椅子としての機能がちゃんとしていることに止まらずに、リビングやダイニングで使うことをふまえた色使いになっていますね。高さが変えられたり、キャスターなどの脚の多様性もあります。特にこの空間に置いた時は、張り地のテキスタイルの色が映えてきれいでした。展示用の椅子の張り地も、空間のスタイリングと同じで、ちょっと遊びもありつつ長く使っていくものとして私が選びました。
SHI_プロダクトデザインは、形を決める硬いところからつくっていって、テキスタイルのように色を決めるのは最後の段階なんです。でも買う人にとっては最初の入り口が色だから、それはとても重要です。
SA_フレームの色も素敵ですね。テキスタイルとの色の組み合わせによって、和にも洋にも合わせられます。あとはボリューム感も、通常のオフィスチェアに比べてすごく扱いやすい。
SHI_私はプレス発表会の時に初めて、おうちのような場所にvertebra03を置くとこう見えるんだ、というのがわかったんです。予想していた以上に、私的な空間に使える椅子だと教えてもらいました。私はデザイナーとして必要なものを絞っていくんですが、スタイリストの仕事は膨らませていく感じがおもしろかった。1個の椅子から、あんなことも、こんな雰囲気も、あのストーリーも、というのが重なっていろんなシーンになっていきます。
SA_ある椅子を紹介したい時でも、それをよく見せるにはまわりとのコミュニケーションが大事で、いい関係を整えていく感じです。私のスタイリングは主役がない、ものを平等に扱っているって、よく言われるんです。
__空間を彩るインテリアスタイリストのお仕事ですが、作原さんの場合は雑誌、ディスプレイ、ショーウィンドウ、カタログなどとても幅広いですよね。
SHI_お仕事するのを見ていて、ひとつのスタイリングにあんなにたくさんのものを使うんだと知りました。このスタジオに運び入れたものもすごい量でした。
SA_テーブルにカップ&ソーサーを置くだけのスタイリングもありますが、引き出しのひとつひとつにものを詰めるようなこともあって、仕事の内容によって大きく違います。特に私は棚を使うスタイリングが多くて、棚ってすごくたくさんものが入るんですよ。大量の本も吸い込まれていく。
__2020年12月公開の映画『私をくいとめて』では、主人公の部屋のスタイリングもされています。
SHI_部屋をスタイリングするって、キャラクターをつくり込むような作業かもしれないですね。
SA_本当にその通りで、みつ子という主人公について監督にヒヤリングして、衣装やいろんなことからイメージをふくらませました。でもスタイリングは架空のものをつくっていく作業でもあるので、必ずしもリアルではありません。そこから普通に戻していく努力をしていきました。監督に話したら、「普通に戻していく」って、いい言葉だね、なるほどね、と。
SHI_それは具体的にはどんな作業ですか。
SA_雑誌のスタイリングだと、キッチンは洗剤もスポンジも多くの場合、きれいなものを並べますが、生活していることを考えたら、一般的に売られているスポンジや日本語のラベルがあるほうがいい。ただし普段のスタイリングも生活感は出すようにしていて、ここに住む人はこういうふうに服を置くだろうとか、そんなことを考えて日常に近づけています。