「旅するように働く」(前編)
福田春美×柴田文江 
「旅するように働く」(前編)
福田春美×柴田文江 

「vertebra03」を手がけたプロダクトデザイナーの柴田文江さんがホストを務めるオンラインイベント「SPBS × ITOKI “vertebra03” Presents「働く」と「暮らす」を越境するデザイン思考講座 フミエの部屋 FUMIE’S LABO」。第4回目の対談相手は、ブランディングやプロデュースなどを幅広く手がける福田春美さんです。福田さんがディレクションするJINNAN HOUSEで行われたトークのダイジェストを、前編と後編でお伝えします。

ファッションのような椅子。 ファッションのような椅子。

__今回は渋谷と原宿の間にある複合施設、JINNAN HOUSEに来ています。そのディレクションをしたのが福田春美さんで、こちらにある茶食堂「SAKUU」では「vertebra03」が使われています。

柴田文江(以下F)_JINNAN HOUSEは渋谷からすぐの場所なのに自然がたくさんあって、お伽噺の中みたい。素敵でリラックスできる異空間ですね。vertebra03が不思議と似合っています。

福田春美(以下H)_SAKUUでは私が張り地を選んだ9タイプ10脚のvertebra03を使っています。私はファッションの仕事をしていたので生地を選ぶのは慣れていて、10分くらいでパパッと選びました。

F_vertebra03の張り地はとても種類があり、色だけでなくツイードや硬めのものなど織り方も4種類あります。色をツートーンにする人は同じ織りの布を選ぶことが多いんですが、福田さんは織りも色も違う生地を選んでいてファッションみたいだと思いました。オフィス用にはワントーンの椅子が選ばれがちですが、こんな椅子が並ぶオフィスも素敵でしょうね。

H_JINNAN HOUSEには編集部やイベント運営会社があるので、SAKUUは食事する人もいれば、仕事や打ち合わせをする人もいます。vertebra03のような椅子は、この空間の使われ方にとても合っているんです。

__福田さんのお仕事も、とても幅広いですよね。

H_「とりあえず来て」といって呼ばれるケースが多くて(笑)、頓挫した案件やこじらせた案件に途中から入ったりもします。働き方は変幻自在で、一緒に働くチームも大きかったり小さかったり。

F_いろんなことがフュージョンしてますよね。

仕事を手放して、自分で動く。 仕事を手放して、自分で動く。

H_ファッションの仕事をしていた頃は、パリにアトリエをもって住んでいました。でも日本に戻った次の年に東日本大震災があり、それを機に会社を閉じたんです。半年ごとに新しいものをつくっていく苦しさや、つくったものにオーダーがつかないこともある苦しさがあり、ファッションに疑問を感じていた頃でした。そこで仕事のやり方を変えようと思い、香りのブランドを始めてから徐々にライフスタイルの仕事が増えていきました。仕事は手放すとゼロになるので、自分で動くしかありません。

F_私も独立してしばらくした時、事務所の生命線だった仕事を思い切って手放したことがあります。手放さないと現状打破できないし、それまでとは違う角度で伸びていける。でも手放した直後は1回、沈むじゃないですか(笑)。

H_それは苦しいんだけど、その時期に仕事の筋力みたいなものがつきませんか?そういう経験があったから、こじらせ案件もできる(笑)。あの時の筋力が助けてくれてるな、という時があります。

__春美さんは精神的に自由ですが、リアルな行動としてもいつも旅をされていますよね?

H_去年までは週1回くらいのペースで、国内で工芸やプロダクトなどものをつくっている方を訪ねました。いちばんよく行くのは北海道で、ディレクションしたメムアースホテル(2018年開業)のために通うようになりました。メムアースホテルは、冬の朝にはスタッフがゲストを連れて一緒に湖でワカサギ釣りをして、その場で揚げて朝食のサンドイッチにしてくれる。日本じゃないような場所なんですよ。ルームキーにはクマの木彫りをつけました。実現する可能性が5%くらいしかなくても、しっかり向き合うとうまく行って、それがアイコンになっていく、ということはよくあります。

F_すごくおもしろいです。デザインというのは、何かと整理していくところがあるけれど、人間的なところに立ち戻るとそういう部分も大事なわけで、考えさせられます。

ミックスカルチャーに学ぶ。 ミックスカルチャーに学ぶ。

H_自分のブランドでファッションショーをしていた頃、尊敬する大御所のスタイリストさんに、あなたは好きなものしか見てないからダメなんだって言われたことがあります。嫌いなものの中にヒントがある、と。それで嫌いだったアール・ヌーヴォーとポストモダンをじっくり調べたら、大好きになって、次の自分ができていった。

F_私は嫌いなものはけっこう嫌いだな……。その言葉、私の人生のターニングポイントになるかもしれません。

__デザインではみんなノイズを排除していきますもんね。

F_確かにデザインはそういうところがあるけど、今は一周まわっていろんなものが入ってきたほうがバランスがいいと思っています。私はファッションではそれを体現してるんだけど、春美さんが張り地を選んだvertebra03はまさにそれで、プロダクトでもこんなことができるんだって感動したんです。

H_東京の特徴はすごいミックスカルチャーで、私のやっていることはそれが大きいんだと思います。ちょっと上の先輩たちが、ハイブランドに古着のリーバイスを合わせたりして、それまでのルールを崩してくれた。私が20代だった頃で、とても影響を受けています。

F_同じ時代にいながらも、プロダクトのようなデザインはそうじゃない部分がたくさんあった。でも私もいいお年頃だから、もっと自由にいろんなものをミックスして、ものをつくってみたいと思います。