「旅するように働く」(後編)
福田春美×柴田文江 
「旅するように働く」(後編)
福田春美×柴田文江 

「vertebra03」を手がけたプロダクトデザイナーの柴田文江さんがホストを務めるオンラインイベント「SPBS × ITOKI “vertebra03” Presents「働く」と「暮らす」を越境するデザイン思考講座 フミエの部屋 FUMIE’S LABO」。第4回目の対談相手は、ブランディングやプロデュースなどを幅広く手がける福田春美さんです。福田さんがディレクションするJINNAN HOUSEで行われたトークのダイジェストを、前編と後編でお伝えします。

新しい時代を迎えて。 新しい時代を迎えて。

__2020年は世の中でいろんなことがありましたが、どうでしたか? 変化の後押しになっているところもあるでしょうか。

F_私も最初はへこんでましたけど、海外にも行けないし、今年はいくつかの役目を辞めてデザインに集中できるようになって、自由に使える時間が増えました。ゆっくり物事と向き合えるようになりましたね。

H_今年は200年以上続いた土の時代が終わって、風の時代が来ると言われています。その最後のところでコロナがやってきた。いくつか拠点をもって、2、3個の仕事をして生きていく時代になっていくんじゃないでしょうか。

F_物事の輪郭が曖昧になり、人と人がお互いに協力して生きていくイメージでしょうか。コロナで外に行けないからオンラインになっていくと、プロとアマ関係なくいろんなことが発信できます。すると同時多発的にいろんなところで新しいことが起きていく。誰かが、どこかで、ということがなくなっていきそうです。

H_仕事のチームの中に若い人を入れるほうが、物事がスムーズに行くことにも最近、気づきました。人間はまだまだ進化しているから、20代のほうが人類として新しいんです。怖がらずに意見をもらうようにしています。

F_春美さんに比べると私は、事務所に決まったスタッフがいて一緒に働く古い仕事の仕方をしているし、そういう仕事でできあがってきたジャンルでした。でも春美さんの考え方には、勇気をもらう若い人たちがたくさんいると思います。

にじみ出るオリジナリティ。 にじみ出るオリジナリティ。

__今日のお話は、おふたりの生き方や仕事の仕方に”旅”を感じました。

H_私はもともと同じ場所に3時間以上いられない性格だったんです。それは弱点だけど、弱点を生かす、みたいな。

F_私は高校生までは自分をすごく変わった人間だと思ってたんですが、美大に入ったらもっと変わった人、パッションのある人、行動力のある人がたくさんいた。今日は春美さんに会って、そんな気持ちです。仕事のたびにどうやってチームを組んでいくんですか?

H_まずはちゃんとヒヤリングして、それに合わせて考えます。私、自分がないんです。すごくやりたいこともないし。

F_わかります。そういう姿勢も若い人に希望を与えると思う。

H_「これが自分のデザインだ」って意識したら、ダサくなる。ヒヤリングして相手に寄り添えば、その人たちのオリジナリティが出てきます。基本が利他主義で、それがすべてを解決すると思っています。そこは柴田さんのデザインも同じではないでしょうか。だから飽きがこなくて、でも自分がにじみ出ている。vertebra03にしても、ここの直径や、ここの細さ、そういったバランスがいい。飽きないデザインをポンと出せるのはすごい仕事ですが、そんな経験をふまえて自由になったらどこまで行くのか楽しみです。

仕事の意識は、もっと自由に。 仕事の意識は、もっと自由に。

__柴田さんは、風景からデザインを考えることはありますか?

F_ありますが、理詰めで考えていくことはありません。たとえば100個のデザイン案があって、そこから1個を選ぶ理由は、本当は言葉で説明できない。昔は一生懸命にデザインのコンセプトを文章にしたけど、ある時に手と頭が一体になったんです。人は普通、言葉というツールで「今日は家に帰ってサンマを食べよう」と考えます。それと同じことが、手を動かしているとできるということです。

H_最近、日本は世界の中でいろんなことで負けてきているけど、それを打破するのは理詰めでなく、ひらめきでありクリエイションだと言い切っている人もいます。

F_感覚だけで済まないのがプロダクトであり、現実的な寸法や強さも必要です。しかし起点にあるのは直感。開発が始まってから、理詰めになっていきます。

__視聴者の方から質問です。デザイン思考に代表されるようにデザインの領域が拡張してきたことをどう思いますか?

F_自然なことだと思うし、もっと広がっていいと考えています。人がいたらデザインがあるから、さらにデザインが広がると同時に深まっていくといいと思います。

H_俯瞰で見るのは大事なことです。あとは心地よいか、楽しいかを感じて、そっちに進むのがいいと思う。私は高校生の頃に、旅することが仕事になればいいと思っていました。今は実際に旅先で知り合った人と仕事になることが増えて、地方に行くのがとても楽しいです。

F_若い人たちも、好きなことと得意なことが自然にリンクして仕事になっていくといいですね。若い頃はよく仕事に不自由を感じて、自由になりたいって思ったけれど、仕事を続けていくと本当の自由が手に入る。それが希望だということは、お伝えしておきたいです。